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吸水調整だけじゃない!モルタル接着増強剤のもうひとつの用途《第30回 街建コラム》

前回のコラム(「モルタル接着増強剤とは」吸水調整について《第29回 街建コラム》) はいかがでしたか?
今回はモルタル接着増強剤のもうひとつの用途でもあるモルタルに混入する「セメント混和用ポリマー」についてまとめてみました。
「ポリマーセメントモルタルの混入方法」や、「樹脂(レジン)モルタルのとらえ方」、「エマルジョンとラテックスの違い?」「カチオンの特性」など・・・普段建築分野でも使われる専門的な用語なども詳しくご紹介いたします。

吸水調整だけじゃない!モルタル接着増強剤のもうひとつの用途

このコラムの内容...



モルタル接着増強剤「モルタル混和材(混入)」の役割

モルタル接着増強剤を混入する目的は、モルタル自体の性能を良くするために使用します。
セメントモルタル(セメント + 水 + 砂)に定められた規定量の樹脂を混入することで、セメントモルタルの結合材としてモルタルの接着力を高め、強度や性能を向上する役割があります。
また、モルタルの「吸水調整(吸水調整剤)」と同様に、塗付け後のドライアウト(硬化不良)防止にも役立ちます。
ドライアウトは下地の急激な吸水以外でも、モルタルを塗った後の直射日光や強風などの蒸発(じょうはつ)により、急激な乾燥収縮によるクラック(ひび割れ)の発生原因にもなります。
それらの防止策として、モルタル接着増強剤は左官屋さんにとって最も必要となる材料です!

モルタル接着増強剤画像

ポリマーセメントモルタルとは?(樹脂モルタル?)

セメントモルタルに接着増強剤を混入したときに「樹脂モル(樹脂モルタル)」と言われることがあるか思いますが、正式には「ポリマーセメントモルタル」という名称に分類されます。
「ポリマーセメントモルタルと樹脂モルタルは一緒?」と思われがちですが・・・
正確には、結合材がセメントの場合は「セメントモルタル」のことで、樹脂(レジン)の場合は「樹脂(レジン)モルタル」になります。
樹脂(レジン)モルタルはエポキシ樹脂などに細骨材(砂)を混ぜ合わせたもので、セメントと水を含まない樹脂(レジン)モルタルのことを言い表し、セメントモルタルに比べ強度が高く、耐薬品性、耐久性にも優れ、主にクラック(ひび割れ)欠損の補修や塗り床材などにも使用されています。

セメントペースト

セメント

セメントモルタル

セメント

細骨材(砂)

ポリマーセメントモルタル

セメント

セメント混和用
ポリマー

細骨材(砂)

POINT

結合材がセメントであればセメントモルタル、樹脂(レジン)だと樹脂モルタルになります。

樹脂モルタル(レジンモルタル)

樹脂

細骨材(砂)


セメント混和用ポリマー(水性ポリマーディスパージョンおよび 再乳化形粉末樹脂)

モルタル接着増強剤のことを正式には「セメント混和用ポリマー」と言われます。
セメント混和用ポリマーは「水系ポリマーディスパージョン」、「再乳化形粉末樹脂(粉末エマルジョン)」などに分類され、現場等でセメントモルタルに混入するものとして、主に水系ポリマーディスパージョンを使用します。
水系ポリマーディスパージョンを通常はセメント混和用ポリマーディスパージョンとも言われています。
そのほか一材型既調合モルタル(水だけを加えるプレミックス品)など、予め原料にも使用されている粉末の樹脂を「再乳化形粉末樹脂(粉末エマルジョン)」と言います。
ポリマーセメントモルタル(セメント + セメント混和用ポリマー + 水 + 砂)はセメント量に対して5〜20%程度(固形分換算)のセメント混和用ポリマーが入ったものですが、経済性や作業性なども考慮し、一般的な使い方として、セメントモルタルや、既調合モルタルなどへ定められた規定量(セメント量の5%程度)を添加するものとしています。

●ポリマーセメントモルタル(例)
水性ポリマーディスパージョン混入の場合

  • 現場調合モルタル(1:3モルタル)

    現場調合モルタル(1:3モルタル)
  • 既調合モルタル

    既調合モルタル

再乳化形粉末樹脂(粉末エマルジョン)入り一材型既調合モルタルの場合

一材型既調合モルタル

一材型既調合モルタル

エマルジョンとラテックスの違い?

日本工業規格(JIS規格)の水性ポリマーディスパージョンは、 JIS A 6203(改正:2015)セメント混和用ポリマーディスパージョンおよび再乳化形粉末樹脂として規定されているもので、水の中にポリマーの微粒子(0.05〜5µm)が均一に分散している状態を水性ポリマーディスパージョンと称され、その微粒子が樹脂の場合はエマルジョン(emulsion)と言われますが、ゴムの場合はラテックス(latex)と呼ばれます。
一般にセメントモルタルに混入して使用する場合は、エチレン酢酸ビニル(EVA)、アクリル酸エステルなど「合成樹脂エマルジョン」や、SBR系(スチレン・ブタジエン・ラバー)など「合成ゴムラテックス」として使用されていることが最も多いです。

セメント混和用ポリマーの種類

セメント混和用ポリマーの種類

出典元:古内 仁「ポリマーセメントモルタルにより下面増厚補強されたRC床版の寿命予測に関する研究」(北海道大学大学院工学研究科)

SBR系(合成ゴムラテックス)

SBRとはStyrene-Butadien rubber:スチレン・ブタジエン・ラバーの略、スチレンとブタジエンを混ぜ合わせたもので天然ゴムに類似した性質を持っており、代表的な合成ゴム系の樹脂で車のタイヤをはじめさまざまな用途で使用されています。
広範囲な種類の下地に対して高い接着力を持ち、 曲げ強度・耐摩耗性・耐薬品性・耐水性に優れ、中性化抑制にも効果があります。新築以外でも改修工事などの分野ではセメントモルタルに混和して使用されることが最も多い材料です。
また、後から塗付けるセメントモルタルの付着性が良くないことから、樹脂そのものを吸水調整剤(シーラー)としては使用されません。

モルタル接着増強、吸水調整剤(SBR系、他)

カチオン系(カチオンってなに?)

「カチオン」とはプラス(+)の電気性質を帯びた「陽イオン」を意味しています。
反対にマイナス(−)の電気性質を帯びた「陰イオン」は「アニオン」と呼ばれています。
下地のコンクリートやモルタルは、マイナス(−)の電気「アニオン」を帯びており、材料にプラス(+)の電気「カチオン」の特性を持たせる事で、磁石がプラス(+)とマイナス(−)で引き合うようカチオン性の材料「カチオン(+)」と、コンクリートやモルタル「アニオン(−)」が強い密着性を得られることになります。その考えを用いたものがカチオン系の材料です

  • カチオン組成物(+)

    カチオン組成物(+)イメージ
  • 従来のアニオン組成物(-)

    従来のアニオン組成物(-)イメージ

カチオン系の材料は、アクリル系カチオン、SBR系カチオンなどがあり、主にモルタル混和材(混入)として、コンクリート・モルタル以外の鉄・タイル・ガラス・塗装面など、あらゆる下地の中間接着剤にも使用されています。
一般的にはセット品(樹脂・モルタル)で販売されているケースも多いですが、モルタル混和剤以外でもカチオン系シーラーとして普及しています。

カチオン特集

カチオン特集

最後に

今回のコラムはいかがでしたか?
モルタル接着増強剤についてまとめましたが、普段皆さんが聞いたことのある専門用語や疑問など、ご理解いただけるよう少しでもお役に立てられればと思います。
今後も街建ならではの特集を組んで参りたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。

参考資料

  • 昭和電工建材(株)建設資材営業部 公式サイト

  • ヤブ原産業(株)  公式サイト

  • ・日本工業規格 JIS A 6203:2015 セメント混和用 ポリマーディスパージョン及び 再乳化形粉末樹脂

  • ・著者:出村 克宣「コンクリート工学 セメント混和用ポリマー

  • ・著者:古内 仁「ポリマーセメントモルタルにより下面増厚補強されたRC床版の寿命予測に関する研究」(北海道大学大学院工学研究科)


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