《第20回 街建コラム》東京都内でみかける左官の風景 第2弾

いままで何気なく通っていた道も、何かを知ってみると風景が変わって見える。
そんな経験をしたことはありませんか。
6月のコラム「都内でみかける左官の風景」では「築地塀」(ついじべい)、特に『瓦塀』を紹介しました。今回はその築地塀の中でも『版築』を探しにお散歩してきました。


このコラムの内容は...

都内でみられる『版築』

今日の目的は「築地塀」の中でも『版築』散策です。ちなみに「版築」は『はんちく』と読みます。
そもそも築地塀とは、粘土を築きあげて造った塀で「築き泥(つきひじ)」の略といわれ、その造りによっていくつか種類がありますというお話しは前回させてもらいました。その中でも、土が層になっているのが特徴の「版築」にちょっと注目。
版築は、突き固めた土のことで土塀に用います。2枚の厚い板(型枠の板材)を一定の間隔で並行にならべ、その間に土を流し込みながら突き固めていく工法で、ある高さに達したら板をはずし版築の土塀を造ります。

広尾・東北寺の『版築』

まずはJR恵比寿駅を降りて、おしゃれなお店が立ち並ぶ街なかを歩くこと約10分。そこはすっかり閑静な住宅街。ここは渋谷区広尾、都内でも高級住宅地として知られた街でもあります。

閑静な住宅街に突如あらわれた迫力ある山門。こちらは東北寺、「とうぼくじ」と読み、正式には「禅河山 東北寺」といいます。

さて本題、山門を抜けると、ちらっとのぞき見えるのは版築の土壁。こちらの『版築』はその特徴でいわれるように土の層を成し、ベージュのグラデーションがみられます。
この日、境内では全て鍵がかかっており中には入れない様子でしたが、「この版築を内側から見てみたい」と思い、勇気を出していざインターフォンへ、、、「あっ、どなたかいらっしゃる」、「ドキッ、出てきた」、、出ていらっしゃったのはこちらのご住職さまです。ご住職さまに事情を説明すると快く中まで入れていただき、お庭の内側からとても素敵な版築塀を見ることができました。

最近では「版築風」といわれる仕上げ材が幾つかあります。いくつかの色土を層にしてコテ塗りをするものです。
勿論それは店舗などの内装にとても栄える素敵な仕上げのひとつですが、実際に土を突き固めてつくった東北寺の版築は、どっしりとした落ち着きある佇まいと和の静かな美しさ、それらを同時に感じることができ、とても不思議な感覚になりました。

もうひとつ歩く「左官の風景」 なまこ壁編

さてもうひとつ、都内でみられる左官の風景を紹介します。 港区三田の慶応義塾大学三田キャンパス、こちらの「三田演説館」では外壁に『なまこ壁』がみられます。

「なまこ壁」は、外壁に平らな瓦を並べて貼り、瓦と瓦の間の目地部分にかまぼこ形に盛り上げた漆喰(しっくい)を塗ったもの。漆喰を使った日本伝統の左官工法のひとつで土蔵やお城の壁などで見ることができます。
なまこ壁の名前になっている「なまこ」とは皆さんお察しのとおり、そうです、海にいるあの「海鼠(なまこ)」。かまぼこ形に盛り上げた漆喰が、酢の物にしても美味しいあの海鼠に似た形をしているからということのようです。

土蔵やお城で見られる「なまこ壁」を外壁全面、洋風の造りに施すのはなかなか珍しいのではないでしょうか。
こちらの「三田演説館」は明治八年(1875年)開館の日本最初の演説会堂として知られており、木造瓦葺、床面積58坪余(192.12u)。

今回は残念ながら館内に入ることはできませんでしたが、一部2階建てになっているそうです。重要文化財にも指定されている非常に貴重な建物です。
ちなみに、英語の「speech」を「演説」と訳したのは慶応義塾大学の創立者・福澤諭吉さんなんですって!

奥の方に進んでいくと素敵なレンガ造りがひときわ目立つ、これまた重要文化財に指定されている『図書館旧館』。工事中のためギリギリまで近づくことはできなかったのが残念です。

他にも外壁の装飾が印象的な『塾監局』。

正面から入るととても近代的な印象を受ける慶應義塾大学ですが、学内を歩いているととても趣き深い建物を幾つかみることができました。

「なまこ壁」をみたあとは

慶応大学を出るとやはりそこは港区三田、オフィス街に囲まれた東京タワーが見えてきました。

そんな一角になんとも味わい深い商店街を発見、『慶応仲通り商店街』。
これは美味しいお昼に有りつけること間違いなし!腹の虫と相談を慎重に重ね、たどり着いたのは『中華そば むらさき山』。
さてさて、、「なぁににしようかな カミサマのいうとおり・・・えっ?」、『紫』の『そば』で「紫(ゆかり)そば」。
ネーミングに誘われて食券を選択、そして実食!(ジャケ買いならぬジャケ喰い)

焦がしネギが香ばしく、味がしみしみのチャーシュー3枚、そして煮たまごどぉーーん。
魚介豚骨醤油らーめん「紫(ゆかり)そば」、美味しくいただきました。そして店内には、「当店の手作りスープは、厳選した鰹や煮干しをふんだんに使い、化学調味料を一切使用しておりません!」の力強いPOP。
大満足で大きくなったお腹をさすりさすり、お店を後にしました。

最後に

今回ご紹介した左官の風景は「版築」と「なまこ壁」。
「版築風」、「なまこ壁風」というものが数多くみられる中、すこしでも昔ながらの工法に近いものを見てみたいという思いから散策してみました。
今回も最後までお読みくださりありがとうございます。
歴史を感じ、風景を感じ、いままで何気なく通っていた道の壁にもちょっと意識を向けてみると案外ちがった景色が見えてくるものかも知れません。
皆さんも「あっ、こんなところで左官がみられる」などがありましたら教えてください。
またお散歩で見つけた左官の風景があればご紹介させていただきます。

今回訪れた場所

東北寺 : 東京都渋谷区広尾2−5−11
慶応義塾大学内 三田演説館 : 東京都港区三田2−15−45

参考資料

世界で一番やさしい左官(原田宗亮氏 著)
左官事典(社団法人日本左官業組合連合会)
伝統的左官施工法(一般社団法人日本左官業組合連合会)
MITA CAMPUS GUIDE(受験生・高校生のための三田キャンパスガイド)
慶應義塾大学HP:https://www.keio.ac.jp/ja/


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