街建コラムも第42回となりました。今回は真っ平な内装床を施工する際にとても便利な優れもの『セルフレベリング材』をテーマに取り上げていきます。
このコラムの目次...
補修材のようなモルタルと比べて、とても流動性が高い「床下地調整材」です。
コンクリート床下地の表面に流し延べることで、鏝(コテ)で押えることなく材料自らが平らになることで、凹凸、不陸のあるような下地表面が平滑になります。
つまり、自ら(セルフ)平らになる(レベルが出る)材料のため、『セルフレベリング材』と呼ばれています。それを略して『SL材』とも呼ばれています。
セルフレベリング材を使うことで、トンボや鏝で均す程度でも、水平で精度の高い床下地が出来上がるとても便利な材料です。
SL材は屋内で使用する製品がほとんどで、施工後(養生後)はその上に床仕上げ材の施工を必要とするものが多くあります。
優れた流動性を発揮し、精度の高い水平性を出すために工場でしっかり管理製造されたプレミックス製品であることもSL材の特徴のひとつと言えます。
そのため現場調合の「1:3モルタル」、「1:2モルタル」等と違い、練り混ぜるための水の量、練り混ぜる時間、品質基準などがかなりしっかり決められており、練り混ぜる際には、水以外のもの(混和剤)を材料と一緒に投入することを禁じているものがほとんどです。
セルフレベリング材は大きく2つに分かれます。
「石膏(せっこう)系」と「セメント系」です。
石膏は水和反応によりわずかに膨張し収縮しないという性質をもっています。
つまり石膏を主成分として使うことで、『寸法安定性が高く、浮きやクラックが発生しにくい』という特長があります。
「JASS 15 M-103」の品質基準では、圧縮強度、下地接着の強度、表面接着の強度が石膏系の基準値よりも高く設定されています。
セメント系には高強度を特長とするものが多くあり、ごくわずかですが外部の使用を可能にしているものもあります。
硬化後は水にも強いという特長があります。
項目 | 石膏系 | |
---|---|---|
セメント系 | ||
フロー値 | 19cm以上 | |
凝結時間 始発 | 45分以上 | |
凝結時間 終結 | 20時間以内 | |
圧縮強度(材令28日) | 15N/mm² | 20N/mm² |
下地接着強度(材令14日) | 0.5N/mm² | 0.7N/mm² |
表面接着強度(材令14日) | 0.4N/mm² | 0.5N/mm² |
長さ変化率(材令28日) | 0.05%以下 | 0.12%以下 |
衝撃 | 割れ剥がれが認められないこと |
<おまけ SL材でよく聞く用語>
※フロー値
厚さ5mmのみがき板ガラスあるいは塩化ビニル製平板の上に「内径50mm×高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容量100ml)」を置き、SL材を充填した後、パイプを引き上げます。
するとSL材が板の上に広がります。広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定した値がフロー値です。
つぎにSL材の一般的な施工の流れについて紹介します。(※各社製品によって異なります)
下地処理
コンクリート下地表面の脆弱部等を取り除き、砂、ホコリなどを除去するように清掃します。
そして、SL材の施工で失敗しないためには、施工箇所周辺の漏れ止めをしっかりすることが大切です。
SL材は床に水を流すような工法なので、ごくわずかな隙間からも流れ出てしまいます。
壁際や入隅の立ち上がり部分などをモルタル等で漏れ止めを施します。
プライマー処理
通常各社メーカーでは自社のSL材に合わせた専用プライマーがあります。きれいに清掃されたコンクリート下地表面に左官用刷毛、デッキブラシ等を使って下地にプライマーを塗布し、十分に浸透させます。
そしてプライマーを乾燥させます。乾燥が不十分のまま(生乾きの状態)施工するとプライマーがSL材の水分で溶けて流れてしまうため、一般的には打設の前日までに処理をしてしっかり乾燥させます。
プライマー処理をすることで、SL材を流し延べた時にコンクリート下地表面の微細な穴にある気泡の発生を防止します。SL材を流した際に気泡が発生してしまうと、SL材の表面に気泡跡ができてしまい、精度の高い平らな面が得られません。
またプライマーにはSL材と下地表面との接着力を増強させるといった効果もあります。
他にも、SL材が硬化する際に必要となる水がコンクリート下地に吸われて硬化不良を起こすことを防ぐ「吸水調整材」としての役割もあります。
混錬
規定量の水を入れた容器にSL材を投入し、ハンドミキサーで練り混ぜます。またはSL用ミキサー(グラウトミキサー)を使用します。
メーカーによっては「スラリー供給」といって、現場で練って(流して)くれる専用の車(ローリー車)が手配できるものもあります。
流し込み
仕上げレベル(高さ・厚み)まで練った材料を流し込みます。
自己水平性が非常に高い材料ですが、表面に流し込んだ時の波紋や躯体から発生した気泡が残ることがありますので、必要に応じてトンボや鏝で均します。
養生
硬化するまでは急激な乾燥を避けます。窓などを閉めて通風を止めます。
通風を止めることは急激な乾燥を防ぐだけでなく、「風によって起こるSL材表面の(波立つ)シワ」を抑える役割もあります。
硬化が完了したSL材はまだ湿った状態ですので、硬化が確認できましたら次は通風を良くして乾燥を促します。
未乾燥の状態で仕上げ材を施工して蓋をしてしまうと、閉じ込められた湿気によって仕上げ材が剥離することがありますので、仕上げができる含水率5%程度まで乾燥させます。
各材料に適した養生期間(通風を止める期間など)を経た後は、床仕上げ材を施工するまでの期間にも注意が必要です。「28日以内」、「1ヶ月以内」等と各製品よって指示されています。
<セルフレベリング材の施工で注意すること>
とても流動性の高い材料なので漏れる可能性のある隙間は、あらかじめモルタルで埋めておきます。
各種セルフレベリング材にはそれぞれの専用プライマーを使います。
プライマーはしっかりと下地に刷り込むように塗布し、下地の気泡がSL材の施工時に発生しないようにします。
プライマーはメーカー指定の希釈倍率で薄めて使うことで躯体へしっかり染み込み、躯体中の空隙に水が入ることで気泡を追い出します。
原液で使用すると表面に厚い膜はできますが、躯体への浸透が不十分で根が張らず、膜ごと浮いて剥がれることがありますので注意が必要です。
混錬の際は、ダマ(撹拌しきれていない材料の塊)がなくなるまで充分に練り混ぜます。
(練り混ぜる時間や必要な水の量は各社製品によって異なります)
凍結などによる性能低下を避けるため、施工可能な気温を確認します。
(「3℃以下での」、「5℃以下での」、「35℃以上での」等、施工は避けてくださいと製品によって注意があります)
硬化するまでの養生期間は窓などを閉めて通風を止め、急激な乾燥、通風によるSL材のシワを防ぎます。
養生後、仕上げ材を施工するまでの期間が設けられています。(「28日以内」、「1ヶ月以内」等)
以上、主な施工の流れを紹介しましたが、レベル決めの墨出しや、施工面積や厚みによって堰を設ける、道具の準備などの作業や注意すべき点はまだ数多くあります。
施工の際は製品カタログや施工要領書に準じてご使用ください。
速硬型セメント系のセルフレベリング材です。セルフレベリング性に優れているのはもちろんのこと、耐荷重性が高いため、フォークリフトなどの重量物が走行する工場、倉庫への使用が可能です。
優れた耐摩耗性により現場の条件によっては素地使用が可能な製品です。
専用プライマー 『ハネダシーラー』(2度塗り施工)
平滑性を有した床用下地材で、耐久性を重視したセメント系セルフレベリング材としてベーシカルな製品です。
専用プライマー 『チチブエースボンド』(2度塗り施工)
屋外の用途で使用可能な下地調整用セルフレベリング材です。水勾配にも適用可能で速硬、速乾タイプです。
張物、ウレタン系塗膜防水材の下地材として適用可能です。
専用プライマー 『UプライマーGU』(2度塗り施工)(金ゴテ押え下地の場合、2度塗り施工可)
流動性、圧縮強度等に優れ、屋内の広範囲な場所で使用できる製品です。
作業性が良く、1回の流し込み後、トンボ等で均すだけで精度の高い平坦な床面が得られます。
専用プライマー 『NS高性能プライマーSL用』(2度塗り施工)
2mm程度の薄塗りができ、35 N/mm²以上の高強度でレベル精度の高い床下地が完成します。収縮クラックの心配がなく、下地との接着性に優れます。
下地の状態によって専用プライマーが使い分けられるようになっており安心です。
専用プライマー 『スーパータックA』(2度塗り施工)
専用プライマー 『スーパータックR』(1度塗り可能)
第42回街建コラム『セルフレベリング材』特集はいかがでしたでしょうか。
「セルフレベリング材とは」から始まり、SL材の品質基準、一般的な施工方法、街建で扱っている商品などを紹介いたしました。
まだまだこれからも数多くの建築材料をご紹介できればと思います。
ではまた街建コラム、街建Facebookでお会いしましょう。街建の中のヒト4号でした。
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ウォール No.24号
株式会社ヤブ原出版部発行 改訂左官辞典
建築工事標準仕様書・同解説JASS 15 左官工事
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