不定期連載街建コラム

第6回 街建コラム 西勘本店インタビュー「良い商品を正しい売り方で」

西勘本店画像

街建のご利用ありがとうございます。街建中のヒト3号です。
今回の街建コラムは、街建で取り扱う商品の製造元・販売元を訪ねてお話を聞く企画の第1回です。

東京・京橋にお店を構える、創業安政元年の老舗「西勘本店」さんを訪ねて水谷典正社長と店長の滝口幸雄さんになかなか知る機会のない左官道具の世界についてお話を伺いました。

「西勘本店」さんは、創業162年となる老舗の金物屋で、その品質の良さは全国の職人さんの間で知れ渡っています。
昨今は、時代の潮流に乗って、目新しいものや技術をより低価格で売ることが求められていますが、流行に流されず先人たちから受け継いだ技術で作る良い商品を正しい売り方で売る「西勘本店」さんは、移り変わりのある現代にも確かな信頼をもたらしています。


品質を第一にしているから、「西勘の鏝」が広まった

──御社の発祥は安政時代の京橋で、東京の鏝と言えば西勘本店さんが有名ですが、何かこの地での創業したのには理由があるんですか?

分からない。自分はもう六代目だから、発祥に関してはあったとしてももう五代経つとわからない(笑)
それと、うちは金物屋です。全部やってます。

一般の金物屋で、最初から鏝屋としてできたわけではない。その中でもいい商品だけ集めて商売しています。
うちは鏝がたぶん有名だと思うんですが、包丁とか刃物も同じくらいやってる。東京電力さんにも工具を販売していますし、カスタムナイフもやっていて、そういうお客さんたちは西勘本店さんって刃物屋だろナイフだろ?ってなります。
ですから、うちは鏝専門ですとか、うちはナイフ屋ですとか、工具屋ですとか言わないし、うちは合鍵もつくれます。


西勘店内画像

──御社の鏝はどうやって広まっていったのでしょうか?

うちは金物でも何でも品質を第一にしているから、それがだんだんと伝わっていったんだと思う。
それと、はっきり言って宣伝は下手!(笑)
だから、鏝を使う左官職人さんには上手くPRができないから、買っていった人がその良さをわかるまで時間がかかった。
例えば5年とか10年とか、「西勘の鏝いいよ」って・・・そういう付き合いのなかでインターネットもない時代で、時間はかかるけど確実に伝わった。

東京ではじまって、いろんな職人さんが全国にいらっしゃる中で、それが少しずつ広まった。
それで、卸の業者さんに頼めば加速度的にもっと広まる。例えば北海道でも買える。だけど、もともとうちは製造量が少ないし卸はとてもできない。
手が2本しかないところで作っていくから卸っていうのができないからやらなかった。
だんだん伝わってからみんな地方からだんだんと来るようになって。

今では、左官の職人さんだけでなく、ペインティングナイフの代わりにうちの元首鏝を東京芸大の洋画家の先生が買っていかれる。
他には、ステンの四半柳刃鏝(※)を買っていかれるご婦人がいらした。不思議に思って何に使うのか聞いてみたんだけど、ひっくり返して鏝の面に溶かしたガラスを乗せて、そのガラスを丸めてガラス細工を作るそうなんです。
そこの先生が西勘の鏝の裏が一番フラットで綺麗に仕上がると生徒さんに教えて下さった。そんな使い方をされる方もいるんですよ。


ステンの四半柳刃鏝画像

※写真はステンの四半柳刃鏝です。

ぶきっちょでハートがやさしい職人同士だから分かり合えた

──よい商品を揃える秘訣がもしあれば教えてください

その時々で一番いい職人に出会えてた。

今でも刃物はうちで砥いでますが、砥いでれば(刃物の良し悪しは)分かるんですよ。
鍛冶の職人さんはだいたい変わった人が多い。なんというか感性がとんがってる人が多い。
とんがってる人は、商品の質についてしゃべると、ちゃんとしゃべってくれる。
特に包丁とかナイフを作る職人さん。ぼく自身も職人だし、いいものじゃないと売らない。そういうことを話すといい職人とのコンタクトがとれる。

営業だと職人の質より売りやすさのほうにいく。他では有名な名前の通った人だ、というだけで売れるとも聞く。
だけど、本当にうまい職人の連中はそういうのに興味ないし、波長があわない。
そのうまい人たちと仲良くなって彼らの作品を売る。そうすると買う人たちはおのずとくる。


西勘本店店内画像

──お店に在籍されている職人さんについて教えてください。

今は滝口というのが、店先に立って、鏝の調整・柄の取付け、鍵作り、包丁砥ぎ、何でもやります。

以前、太田原っていう天才的な職人がいたけど、それが滝口に何年かかけて脈々と教えてた。
うちに来た何人かの中で滝口はハートがやさしいから続けてもらっている。ハートがやさしいから商品に対してもやさしく対応できるなと。
器用なやつは器用に対応するけど彼はぶきっちょでハートがやさしいからまじめに取り組むし、道具を丁寧にあつかってくれる。職人さんにもちゃんと対応してくれる。

昔は店の一階の作業場がもっと広かった。職人が常に3人くらいいた。店の半分くらいがそのスペースだった。今は仕事が少なくなってきて今は1人分のスペースだけど。
日本が右肩あがりのとき、職人さんが帰れるのが週末や年始年末しかなかったからほぼ年中無休でやってたんだけど、今年の2月から日曜定休に変えた。時代にあわせてやっている。


西勘本店インタビュー「先人から受け継がれてきたもの」

良い商品を正しい売り方で売る

──これだけ歴史が長いと先人が遺されたもの・受け継がれてきたものとかはあるんですか?

よく聞かれるけど、ほとんど無いんだよね。「老舗ですから何かあるんですよね?」って。いろいろ聞かれる中でだいぶ自分の考えが煮詰まってきた。
自分はこの店の創業の安政元年から100年たって生まれたの。100周年記念で生まれた!(笑)

うちは創業162年なんですが、僕が162 歳ならいろんなことが言えるんですけど、まだ62歳でしょ。 「62 で言うのは生意気だよね」っていうのがわかった。
うちが初めて作った鏝とかも残ってないな。

刃物とかよく非売品にして残しておく人たちがいるんだけど、ぼくはコレクターじゃないからいいものを先に売ってっちゃう。だから非売品として残ることがない。たぶん先代たちもいいものがはいったら先に売ってたと思う。
お客さんがきたら「いいのがあるよ」って言いたくなっちゃうじゃないですか。

唯一、店先に遺してあるものといえるのは、奈良の薬師寺が再建されたときに使われた「千年釘(せんねんくぎ)」。文化財は可能な限り建造時の技術で作らなくてはいけなくて、かつての釘を再現した。それをうちから製造・販売したものを一つだけ飾ってます。それくらいです。

老舗だのどうのこうの言うのが変じゃないかと。このままリレーをずっとやるだけ。


千年釘画像

──その「リレー」ってどういうことをやっていくのでしょう?

そのことをずっと考えてきた。
どういうことをやっていくかというと、「良い商品を正しい売り方で売る」。
変に値切ったりしないで良い商品を正しく売る。

鏝の業界でも刃物の業界に対しても私自身に高邁(こうまい)な考えはありません。まず社長がやらなくちゃいけないのは雇用の確保です。

うちにご縁で来た人たちを定年までどういうかたちで活かせられるか、その人たちの人生あずかってるわけでしょう?
うちであずかってる職人の定年になるまでどう食わしたらいいのかと。
それで、金物全般を扱いながら、滝口には鏝の修理をやらせてる。
いい商品を正しいやり方で売る。鏝とか工具でもその本業にこだわって、それで雇用を確保しているんです。


西勘本店画像

断る判断も仕事

──御社の付き合いのある鍛冶職人さんに、鏝の制作の提案はされますか?

あんまりできない。
左官職人さんに「こういうのがほしい」と言われて鍛冶屋さんに伝える。
でも両方の生活がかかってるし。要望を簡単に言われるけど、作るときは鏝を1丁つくるわけではない。
焼き入れで失敗したり歪みが生じるかもしれない。ほかの仕事をやる手を止めてもらわないといけない。カスタムナイフでもむずかしかった。

うちのレベルで職人さんにやらせるとびっくりするくらい高い。そういうわけで1丁に対して(失敗作もふくめて)3、4丁の価格が必要だから。包丁とかの影打ち(※)のような。
だから、うちは1丁だけの需要だと成り立たない。ただし、西勘だからってそういう話をもってくると「ばか高い」っていわれる。

そういう人とは商売が成り立たないからそういう人はちゃかちゃかっとやってくれる人のところにいけばいい。
作る方も、買う方も、数をお互い確保して、新しいものをやるかどうかの判断が社長の仕事。
そういうこともマネジメントしないと雇用が確保できない。売れるんだったら何でもやるってことはしない。断るのも仕事。

※【編集部注】
影打ち…日本刀を打つ際、数本打った中で一番良いものを「真打ち」と呼び、依頼主に渡す。それに対し、鍛冶が手元に残すものを「影打ち」という。


西勘本店画像

──ところで…西勘本店さんの近くのおいしいお店を教えてもらえますか?(笑)

行くんだったら...。
京橋2丁目に「レストラン・サカキ」っていうフレンチがあるんだけどそこはおいしい。
安くてっていうよりは3万くらいのコースが1万くらいで食べられて腹いっぱい。
だけど予約がとれない。あそこがおいしい。

レストラン・サカキ(食べログ)※外部リンク
あとは…何が好き?

──お蕎麦とかあります?

蕎麦は、おいしいところがあったんだけど、なくなっちゃって...。
高い蕎麦が嫌いで。「そばよし」っていうのがすぐ近くの京橋3丁目にあったの。
鰹節屋さんがやっている立ち食い蕎麦屋さん。あそこのきしめんもおいしいね(※)

※ 【編集部注】
そばよし京橋店は2016年初頭に閉店しましたが、日本橋本町1丁目のそばよし本店は現在も営業中です。

そばよし(食べログ)※外部リンク


店長:滝口氏インタビュー

ここからは先ほど水谷社長に紹介していただきました、店長の滝口氏へのインタビューです。

修行と修理

──おいくつの頃、どういったかたちで西勘本店さんに入社されたのですか?

37,8歳の頃です。その後、10年以上、先輩方に教わって、修行を積みました。
まずは、刃物の砥ぎから教わります。鏝の木の柄を細工するのにノミを使ってたら当然ノミの切れ味がダメになりますね。

自分が使う道具だから、まずそれがちゃんと整うようになってからその道具を使ってやる仕事に入っていきました...


作業場所画像

──普段はどんな注文が来るんですか?

刃物を砥いだり、鏝の首のカシメ(※)を直したり。職人さんが来られて「柄を角(かく)にしてくれ」とかああしてほしい、こうしてほしいという注文があります。

基本、うちは丸い柄なんですが、角柄(かくえ)にしてくれって。あとは柄の長さを高くしてくれとか低くしてくれとかって。
指が入るのがちょっと痛いとか。柄の高さ変えてくれっていうのはここの削り方を変えるしかないですよね。ただここを削っちゃうと薄くなるから割れやすいですよね。
それは限界があるよってことを言う。

手袋をする職人さん、素手でやる職人さん、腕が大きい職人さん、腕が短い職人さん、なるべくあわせて店先にある鏝から選んでもらって、どうしても無いなって言ったら直しをやります。

大変なのは紫檀(したん)の柄をつけることですね、硬い素材なので角材から切っていくのに時間かかります…一丁で1カ月はかかります。やりながらお客さんいらっしゃるので手を止めたりしないといけないし、日によっては進まない日もあります。

※【編集部注】
カシメ:鏝の制作過程で、鏝の首部分を鏝の本体の中心にあいた穴にさした後、円錐上になった首部分を鏝裏から叩いて気密にして隙間を無くし、両方を接合させること。またはその接合箇所のこと。


作業画像

長く道具を壊さないように使うコツ

──修理のためにきた道具を見て使ってる人のクセってわかります?

クセはわかります。
左利きとか右利きとか・・・柄も握り方で分かります。鏝が利き手の方だけ擦り減ってきます。

擦り減ったのをまっすぐにして左右揃えてくれって人がたまにくるんだけど、擦り減ったのを元に戻すことはできないんで片減りしてない方を切るしかありません。
なのでその時新しいのをお買い求めになる方がいます。

──修理の依頼がくる中で、長く壊さないように使うコツってありますか?

当たり前のことですが、使ったら必ず洗って、セメントとか取って、油をひくといいと思う。

コンクリートとかセメントとかつけたまま持って来る人もいるから、そういう人は鏝長くもたないなって...。
汚く使ってるなぁと心で思いながら直します。きれいに使ってれば長持ちするしね。

──しつこいようですが…西勘本店さんの近くでおいしいお店を教えてもらえますか?

「大天門 八重洲」という中華屋さんです。八重洲二丁目の宝くじ売り場の隣です。
何を食べてもおいしいので、いつも日替わり定食を頼んでしまいます。


大天門 八重洲(食べログ)※外部リンク

──お忙しい中、インタビューにご対応いただきありがとうございました。

株式会社 西勘本店

住  所:〒104-0031 東京都中央区京橋1-1-10
電話番号:03-3281-2387
公式ホームページ:https://nishikan-honten.com/

西勘本店店内画像

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