第59回街建コラム、今回のテーマは「鏝」。かば焼きすると美味しいあれではありません。「鰻」ではなくコテです。
「鏝」(コテ)と「鰻」(うなぎ)、漢字にするとよく似ています。金偏か魚偏かの違いで旁(つくり)の『曼』がおんなじ感じです。すいません駄洒落です。
コテだから金偏で、うなぎだから魚偏。これはなんとなくイメージが湧きますが、では「曼」にはどのような意味合いがあるのでしょうか。気になります。
漢和辞典によりますと「曼」という漢字には①ひく、ひっぱる ②ながい、ひろい、ひろがる ③うつくしい、といった意味合いがあるようです。ここに金偏や魚偏がくることで「コテ」や「うなぎ」と読むこともなんだかうなずけます。それでは街建プロでも数多く取り扱っている鏝について、もう少し話を進めましょう。
《目次》このコラムの内容は...
まずは「鏝」という言葉そのものを辞書で調べますと次のように書かれていました。
①~④を見る限り、コテはさまざまな場面(業態)で使われている言葉のようです。
私たち建築業界に関わる者にとって最も馴染み深いのは、やはり①で言われている鏝で、左官道具のひとつで壁や床などを施工する際モルタルや漆喰(しっくい)など塗り付ける時に使われるあの鏝ではないでしょうか。②③は「焼きごて」、いわゆるアイロンのことで、④は電子部品の取り付けで使用される「はんだごて」のことですね。
今回の街建コラムではモルタル、漆喰等を施工する際に使用される左官道具の鏝に注目します。
鏝は作業内容、施工箇所によってさまざまな材質、形、大きさがありますが、鏝といわれてまず頭に浮かぶのは先の尖った平らな金属の板に、握るための木の柄がついたこんな感じのものではないでしょうか。いわゆる金鏝です。
鏝は大きく3つの部位に分けることができます。
持ち手の『柄』、平らな板の部分の『鏝台』(板)、柄と鏝台をつなぐ『首』です。
木製で断面の形状が楕円形や四角形などがあります。
漆喰仕上の多い関東では、柄をつかんだ時に力の入りやすい楕円形となり、土壁仕上げの多い関西では、柄を親指で押える持ち方になり、柄の上部が平らになった歴史があるといわれています。地域性やそこで使われる材料が道具の形を生んだと言えるでしょうか。
形状、素材、焼き方などによって様々な種類がございます。使用する材料、施工箇所、用途などによってそれらは使い分けられています。 それについてはまた後ほど。
主に「元首」、「中首」といった種類があります。
「中首」は首が鏝台の中心部から出ているもの。鏝台(板)と首の接合部分を「かしめ」といい、首を鏝台に刺した後、リベットのように飛び出した部分を鏨(たがね)の一種で打って叩き潰し隙間をなくし、接合します。中首タイプの鏝は安定感があり現在では主流となっています。能率的な作業をおこなう際に向いているようです。
「元首」は首が鏝の最後尾(鏝尻)についているもの。細かい作業に向いており、明治以前では主流の形でした。元首は首を鍛造(たんぞう)によって敲き(たたき)だすことで首を一体化させることができます。ところが中首の場合、首と鏝台の接合部分(かしめ)の接合技術が必要となるため、技術的に困難だった時代には元首のタイプは積極的に採用されることが少なかった(あるいは製造されることがほぼなかった)といわれています。
ちなみに元首でも首の部分がカーブしながらヒョロっと長くなっているものは「鶴首」(つるくび)と呼ばれています。見た目と名前がイメージ通りですね。細かいところ、狭いところの塗り付けに使用する鏝に採用されています。
鏝でモルタル等を塗り付ける板状の部分を「鏝台」。こちらにも各部位によってそれぞれ呼び方があります。
例えば尖ったところを「先」、その逆側、鏝台の末端部分を「尻」(鏝尻)や「元」、先の尖ったところから鏝尻までを「通り」、柄の付いている側が意外にも表側で「背」と呼ばれ、モルタルを塗る面が裏側で「腹」と呼ばれるのが一般的です。
表側が「背」、「裏側」が「腹」。「東が西武で西 東武」の池袋駅のようです。
金鏝の鏝台は製造方法のひとつであるその焼き方によって硬さが異なってきます。その硬さの違いに応じた用途があるようです。
「柔らかい」ものから「硬い」ものの順に話しを進めます。
あわせて読み方も一緒に紹介しますね。
金鏝の中でも一番柔らかいものです。
鉄の板を焼き入れせず、鍛造したものです。鉄でも純鉄に近い素材を使用します。主に土壁などの塗り付けや中塗りなどの作業に用いられます。よく鍛造したものは「黒打ち」とも呼ばれます。
地金の次に硬さのある鏝です。
現在では「半焼き」といっても鋼を熱処理したものが主流となっており、鋼を鍛造しただけの物はかなり少なくなっております。半焼きの鏝は土壁の均し(ならし)作業やモルタルの塗り付け作業に適しております。現在ではモルタル用としてよく使われるようになったため、用途に適したある程度の硬度を持たせる必要があり熱処理をしたものが主流となっております。その場合、焼き入れに780~850℃で加熱し焼き戻し300~450℃、色付けを280℃でおこなわれているようです。
半焼きより硬く、靭性があるのが特徴です。良質の炭素が含有された鋼が使用されています。油を付けて焼き入れを780~850℃でおこなった後、焼き戻しを250~300℃の温度でします。現場では光沢を出す押さえ仕上げ作業に適しています。
油焼きより硬く靭性があります。焼き入れは780~850℃で加熱し、焼き戻しを200~250℃の温度で行います。
焼き入れをした鏝の中では、硬度がかなり高く、靭性もあるため、材質としては良質の炭素が含まれた「安来鋼」(やすきはがね)や「スウェーデン鋼(こう)」などが使用されております。硬さや靭性の高さから、磨き作業や押さえ作業に用いられます。
焼き入れ、焼き方、鏝台の硬さとは少し違った話しになりますが、金鏝の鏝台には「ステンレス鋼」を使用したものがあります。
金鏝の鏝台に「ステンレス鋼」を使用した鏝には、薄くしなりを出せるという特徴があります。上塗り、薄塗り仕上げに用いられることが多いようです。
鏝台の薄いものですと0.2㎜厚、0.3㎜厚といったものもあります。硬さや薄さ、しなりがあるといった特徴だけではなく、ステンレス鋼を使用したものは耐食性に優れているため、錆(さび)ない鏝としても重宝されています。
小数点以下の違いの中で、自分にとって作業性のよい鏝、用途にあった鏝を使い、施工を行うという左官の繊細さを感じます。
「鏝台」(板)の種類には金属の他にも、「木」や「プラスチック」、「ゴム」等があります。それらはそれぞれに「木鏝」(きごて)、「プラスチック鏝」、「ゴム鏝」と呼ばれています。
プラスチック鏝は「目荒らし」や「伏せこみ」作業の他にも、プラスチックのしなりとツルっとした形状を活かして、最終仕上げの波消し作業に使用する鏝などもあります。
ゴム鏝は、鏝の腹側にスポンジラバーを張ったものが一般的で、タイル目地に目地材を詰め込む際に使用されます。使用される場面では他にも、塗装、防水作業ではゴムベラ代わりに使われているようです。
鏝の形としてはもっとも馴染み深い、先の尖った鏝。
仕上げに使用される「仕上鏝」や中塗りに使用される「中塗鏝」などがあり、先にお話しさせてもらったように、塗る場所、用途などの違いによって、鏝の大きさや鏝台の材質を使い分けます。
鏝台が平らで四角い形状(ほぼ長方形)になっています。
角鏝も剣先鏝のように、大小さまざまなサイズや数多くの材質があり、それぞれ用途によって使い分けることには変わりませんが、主な用途としては平滑な広い面積の壁を効率よく押さえたりするような仕上げ作業を行う際に使用されることが多いようです。
角鏝の片側(短い側と長い側、もしくは長い側のみ)にクシのようなギザギザが施された鏝で、単に「櫛鏝」(くしごて)と呼ばれることもあります。
クシ目のギザギザした形状(尖ったもの、四角い凹凸など)や、その大きさはざまざまですが、左官工事で次の塗り工程の接着をよくするためにあらかじめ縞状の模様をつけるのが主な用途です。タイル仕上げで接着材を塗る時に使用されることが多くあります。
モルタルやコンクリート土間の均し(ならし)、押さえの使用に適しています。
鏝台の先が丸くなっているものが一般的で、その形状は「先丸」(さきまる)と呼ばれています。剣先鏝と違いこの丸みを帯びた形は土間作業において浮き水による鏝波(こてなみ)が出にくいのが特徴です。
鏝にはかなり特殊な形をしたものがあり、「これどこに使うの?どんな風に使うんだろう???」っと考えさせられます。数多くの種類がある鏝からみればほんの一例ではありますが、いくつか紹介させていただきます。
タイルの目地を押さえるための鏝です。タイルの目地には広いもの、狭いものいろいろ幅があるように、当然目地鏝にも数多くのサイズがございます。
ちなみにですが、目地鏝の「長さ」といえばこの目地を押さえる鏝台の長さのことを言います。そうすると「幅」(巾)はもちろん鏝台の幅ですね。
左官作業の中で出隅(でずみ)部分の仕上げに使われます。
Vの字を逆さましたような形ですがこれにもさまざまサイズや、Vの尖り具合が鋭いものからそうじゃないものまであります。さかさまのVの形状や仕上げ面を平らにするための羽根の形状(付き方)にもいろいろあり、いろいろな呼び方があります。ちなみに( )内は読み方になります。
「面無し」(めんなし)、「内丸」(うちまる)、「角面」(かくめん)、「小羽根」(こばね)、「片羽根」(かたばね・かたはね)、「片羽根甲羅」(かたばねこうら)などです。
面引き鏝のサイズの表記は、「羽根巾」と「Rサイズ」(Vの尖ったところに納まる円の直径)などで表されます。
例)内丸・長さ120㎜・羽根巾38㎜・R12㎜
面引き鏝はその形状によって、「道路面引き鏝」、「甲羅付き面引き鏝」など調べれば調べるほどディープな世界へと入っていきます。
入隅(いりずみ)部分の仕上げに使用されます。面引き鏝とは逆にふつうのVの字のような形状になっています。もちろんサイズ、細かな形状、角度は多岐にわたります。
面引き鏝で「内丸」に対して、もちろん「外丸」もあります。そのサイズがVの字の尖った内側に納まる円の直径Rで表されるのは内丸の時と同様です。
ちなみに、切付け鏝でVの字の尖った部分にアールがついている場合、「面引き鏝」と「切付け鏝」とを分けて考えずに、「面引き鏝の外丸」という場合もあるようです。
面引き鏝の小さいもので、指先で摘まんで使います。狭い場所や通常の大きさの面引き鏝では入りにくい場所で使用されます。茶室で見られるような木舞をそのままみせたような窓(下地窓)や土蔵の戸前などの施工で使用されることがあるようです。
エンバリ鏝とも言われています。円を張るのに適しており、曲面の仕上げ作業に使われます。例えば水道工事で排水桝のパイプの継ぎ部分で使用されることがあるようです。
コンクリート型枠に使用されたセパレーター(Pコン)の後処理モルタルのモルタル詰めの仕上げに使用されます。(打ちっぱなしコンクリートで見られるあの丸いモルタルでふさがれた穴ですね)
ハートのような、桃のような、形をしています。名前の通り煉瓦(レンガ)積みをする際や材料(モルタル)をすくう際に使用されます。
レンガ鏝の大きさは1、2、3、4、5番といったように番号で区別されており、番号が小さくなるほど鏝は大きくなります(1が大きいサイズ、5が小さいサイズ)。
上からみると鏝台が三角形になっているものが多く、ブロック積みの時に使用されます。コンクリートブロックの空隙孔にモルタルを入れ、ブロック積みをするのに適した形に工夫されています。
いかにも鏝らしい鏝から、形をみただけではちょっと使い方がよくわからない鏝まで紹介させていただきました。「剣先鏝」、「角鏝」、「土間鏝」は、鏝といわれれば真っ先に頭に浮かぶような馴染みのあるものかもしれません。「つまみ鏝」、「エンバル鏝」、「ホームタイ鏝」はいかがでしたでしょうか。左官の長い歴史の中で細分化されて来たものとはいえ、ちょっと驚きですね。
ここでは鏝そのものではなく、鏝を便利に使うために必要になる関連の道具を紹介いたします。
左官でモルタル、漆喰(しっくい)などを塗る時に、鏝を持った手(右手)と逆の手(左手)に板状の道具を持ちます。その板の上にはモルタルや漆喰などの材料をのせます。練ったモルタル等の材料を鏝板にのせ、のせた材料は鏝を使って塗り付けていくといった手順になります。
鏝などの収納に便利です。施工道具を収納するための道具箱の内側に金具のツメを引っ掛け、中枠をセットします。その中枠に鏝の首の部分を引っ掛けて、鏝をぶら下げるように収納します。繊細なつくりの大切な鏝がひとつの道具箱の中で、他の道具を分けて収納できるのでとても便利です。
第59回街建コラム『鏝』はいかがでしたでしょうか。
左官作業に欠かせず、馴染み深いものでありながらも、サイズ、形、材質などで名前や用途の違いがあり、形がそのまま名前になっているもの、用途が名前になっているもの、材質が名前になっているもの、またはそれが組み合わさり、踏み込めば踏み込むほどディープな世界にハマっていき、体系立てて、簡潔に紹介することがなかなか大変なテーマでした。鏝の種類、焼き方等の読み方ひとつ取ってもなかなかクセのある世界でした。伝わりましたでしょうか?
これからも街建コラムでは商品紹介だけではなく、皆様のお役に立てそうな情報を少しずつでもお伝えできればと考えております。
ということで、鰻が食べたくなったので川越にある名店「川越いちのや」さんに行ってきました。ふわっふわで美味しかったです。
それではまた街建コラム、街建Facebookでお会いしましょう。街建の中のヒト4号でした。最後までお読みいただきありがとうございました。
※商品を使用の際は、その使用前にはカタログ、取扱説明書などをよくお読みいただき安全にお使いください。
【他、資料提供】
・株式会社関忠