夏はもちろん暑いのですが、夏以外でも年々気温が高くなっているような…。
日本の気温はどこまで上がってしまうのか?と思いながらこのコラムを書いています。
皆さんは日本での歴代最高気温は何℃なのかを知っていますか?
私は知らなかったのですが歴代最高気温は2020年と2018年で2回観測されています。
1つは2020年8月17日の静岡県浜松市で最高気温が41.1℃となり、もう1つは2018年7月23日の埼玉県熊谷市で観測された41.1℃でどちらも歴代最高気温です。
暑い場所で長時間過ごしていたり、水分をとらなかったりすると体の調子が悪くなり「熱中症」になってしまう可能性があります。
テレビで「熱中症」という言葉が良く出てくる時期ですが、そもそも「熱中症」とは何なのでしょうか。
今回は作業現場で熱中症にかかってしまう要因や症状など、熱中症についてのコラムです。
《目次》このコラムの内容は...
厚生労働省によると、熱中症とは高温多湿な環境に長時間いることで、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態を指します。
熱中症は屋外だけでなく室内で何もしていないときでも発症し、救急搬送が必要な状態になったり、場合によっては死亡してしまうこともあります。
熱中症というと暑い日差しに当てられる屋外でなってしまうイメージを持っていましたが、室内にいても熱中症になってしまうなんて!
次は職場での熱中症の死傷者数について見てみましょう。
※2022年の件数は2023年1月13日時点での速報値です
※()内の数値は死亡者数であり、死傷者数の内数です
※参考:中央労働災害防止協会-厚生労働省や関係団体と連携し、職場での熱中症予防対策を積極サポート5月から「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」より
中央労働災害防止協会によると、職場での熱中症による死亡者および休業4日以上の業務上疾病者数(以下合わせて「死傷者数」)は、令和4年(2022年)に合計で805件、うち死亡件数は28件となりました。
2022年は2021年と比較しても死傷者数、死亡者数が増加しています。
次に業種別で見てみましょう。
※2022年の件数は2023年1月13日時点での速報値です
※()内の数値は死亡者数であり、死傷者数の内数です
※参考:中央労働災害防止協会-厚生労働省や関係団体と連携し、職場での熱中症予防対策を積極サポート5月から「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」より
業種別では全体死傷者数の約40%が建設業、製造業で発生しています。
また2018〜2022年で建設業の死亡者数は51件と最も多く、全体死亡者数123人の約41%を占めています。
高温多湿な環境での作業が多いので想像はしていましたが、こうやって見ると改めて熱中症には気を付けなければなりませんね。
次に、年齢別の発生状況はどうなっているのでしょう?
※2022年の件数は2023年1月13日時点での速報値です
※()内の数値は死亡者数であり、死傷者数の内数です
※参考:中央労働災害防止協会-厚生労働省や関係団体と連携し、職場での熱中症予防対策を積極サポート5月から「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」より
2018年以降の年齢別では40歳以上の死者数が合計104人となり、全体死傷者数の約85%を占めています。
熱中症になる原因は様々ですが、私たちの体はいつもどうやって熱を外に逃がしているのでしょう?
私たちの体が熱を逃がしている仕組みについてお話します。
蒸し暑い環境に長く居たり、運動を続けると体温が上昇してきます。
私達の身体は上昇した体温を逃がすため、汗をかいたり身体の表面(皮膚の下)に流れる血管が拡張して血液の流れる量を増やしたりしているのです。
汗をかいたり、血管を拡張するとどうして熱を逃がせるのでしょう?
▽汗をかく
汗が蒸発するときに発生する気化熱が体温を下げる働きをしています。
夏の打ち水をイメージしてみてください。
打ち水は、水が蒸発するときに地面の持っている熱を奪って水蒸気になることを利用して地面の温度を冷やしています。
汗も打ち水と同じように、蒸発するときに人の体から熱を奪っています。
汗は私たちの血液からできていますので、暑い時に水分補給が大事と言われるのは汗をかくために失う(失った)水分を補給するためです。
▽血管が拡張して血液の流れる量を増やす
体にこもった熱を外に逃がして体温を下げようと皮膚近くの血管が拡張します。
皮膚近くの血管を拡張することで、より多くの熱を外へ逃がそうとします。
その結果、熱を体外に逃がして血液の温度を下げ、冷めた血液が身体の中に戻っていくことで身体を冷やしています。
暑いときに顔や肌が赤くなるのは、身体から熱を逃がそうと身体の表面(皮膚の下)に普段よりも多くの血液が流れているからなんですね。
ということは、いつもより血液が必要になる…ってコト!?
熱中症になってしまうポイントがわかりかけてきました。
では、具体的にはどのようなメカニズムで熱中症が起きてしまうのでしょうか?
「体内の熱を放出する仕組み」でお伝えしたように、汗をかいたり血管を拡張して血液を流すことで多くの血液を必要とします。
その結果、全身を流れる血液の量が減り、血圧が下がり、脳への血流が減少します。
血液が減ってしまった身体は、体外にうまく熱を逃がすことができません。
血流や血圧の変化が生じることで、顔面から血の気が失せたり、めまいや立ちくらみなどの熱中症の症状を引き起こします。
また、汗をかいて身体から水分が減少すると筋肉や脳、肝臓(かんぞう)、腎臓(じんぞう)などに十分血液がいきわたらないので、筋肉がこむら返りを起こしたり、意識を失ったり、肝臓や腎臓の機能が低下したりします。
こうして体調が悪くなって熱中症になってしまうのです。
一口に「熱中症」と言っても、症状に応じて重症度が異なります。
日本救急医学会では2015年に熱中症の重症度をT度からV度へと分類しています。
熱中症の症状と重症度分類
(出典:日本救急医学会熱中症分類 2015より作成)
T度:めまいや立ちくらみ、足がつるなど
体温が上がると、皮膚の下に流れる血液の量が増え、より多くの血液を身体全体にいきわたらせようとします。
すると一時的に血液が足りなくなり血圧が下がることがあります。
血圧が下がると脳に十分な血液が送られず酸欠状態になってしまい、立ちくらみやめまい(熱失神)、足がつる(熱けいれん)などの症状を引き起こします。
U度:頭痛、嘔吐、倦怠感など
T度と判断できないときは、U度以上と考える必要があります。
汗をかいて体内の水分を失った時、水分を十分に補給できないと脱水症状になり嘔吐や倦怠感を感じるようになります。
体がぐったりする、力が入らないなどがあり、「熱疲労」と言われる状態です。
V度:意識障害、痙攣、血液検査異常 高熱とともに意識障害などの脳の障害、肝臓や腎臓などの臓器障害、血液凝固障害のいずれかがあり、入院して治療を受ける必要がある「熱射病」のことです。 V度ではすぐに医療機関で適切な処置を受けましょう。 生命の危機に晒されている可能性が高く、治療が遅れることで一命を取りとめても障害が残ったり、通常の状態に戻るまで長時間の治療が必要になる場合があります。
現場作業では特に熱中症への注意が必要ですので、熱中症になる要因をご紹介します。
【人体要因】
【環境要因】
【作業要員】
【衣類要因】
建設業界などの工事現場では緊急性を伴う場合も多いと思います。
水分補給や塩分補給のための休憩時間が十分取れなかったり、通気性の良くない衣類を身に付けてしまうと体に熱がこもり熱中症への危険性がぐんと上がってしまいます。
作業に入る前に自分の身に付けている衣類や周りの環境がどんな状態かを確認してみてください。
それでは次に、熱中症ではどんな症状が出るのか見てみましょう。
熱中症の疑いのある人を見かけたら、まずは意識があるかどうか確認します。
意識がない場合はすぐに救急車を呼んでください。
症状が明確でなくても判断に迷うことがあれば、速やかに救急車を呼びましょう。
参考:環境省 熱中症環境保健マニュアル2022
症状が一時的に良くなった場合でも、「熱疲労(U度)」や「熱射病(V度)」の症状がある場合は、急に容態が変わる可能性があるので病院での診察を受けましょう。
これまで熱中症の要因や対処方法(応急処置)をお話してきました。
次は、作業現場で熱中症を防ぐためにできることを見てみましょう。
熱中症は命にかかわることもありますが、予防方法を知っていれば防ぐことができます。
国土交通省では、熱中症対策の事例として
を紹介しています。
@気象情報の入手
熱中症の発生しやすい季節(6月から9月)においては積極的に気象情報を入手し、対策をとることが必要です。
その日の気温や湿度を把握することで、熱中症にかかりやすい状態かを気に掛けることができます。
A暑さ指数(WBGT値)の計測と周知
現場の気象状況(暑さ指数:WBGT値)を把握することや、熱中症予防情報メールサービスやスマートフォン用アプリを活用し、作業員に熱中症への注意を促すことができます。
具体事例:
〇警告メールの自動送信
〇環境省熱中症予防情報メールサービスに登録し、情報を関係者に周知する
B暑さ指数(WBGT値)の低減
高温・多湿で無風な状態になりやすい現場条件では、大型扇風機やドライミスト、遮光ネットなどを活用して作業現場の暑さ指数(WBGT値)を低減することができます。
具体事例:
〇散水による現場の温度低下
〇仮締切内に扇風機+ドライミスト
〇遮光材入りのメッシュシートによる日除け設備と大型扇風機の設置
〇日除け設備と大型扇風機の設置
〇鋼矢板内の作業時における送風機の設置
C休憩場所の整備など
作業現場の環境改善のほか、下記のような労働者の休憩場所の整備をすることで例え救急車両を必要とする状況になった場合でも、休憩所で救急車両が到着するまでの間休むことができます
具体事例:
〇作業場所の近隣に冷房やシャワー等、身体を適度に冷やすことのできる設備を設置
〇冷蔵庫や製氷機の備品の設置、経口保水液等効果的な飲料水を常備
〇保守工事等で現場近隣に休憩所を設置できない現場における休憩用の車両を配備
(車内にクーラーや温冷庫を設置)
〇現場休憩所に日よけテントの設置(ミスト扇風機)
〇緊急時には担架として使用できるベンチを休息所に設置
@作業時間の短縮など
作業休止時間や休憩時間を確保し、高温多湿作業場所での作業を連続して行う時間を短縮することで熱中症予防対策になります。
具体事例:
〇休憩時間の確保
・休憩は1時間に1回とるように指示
・作業員の休憩時間を通常期より長く確保など
〇携帯型WBGT値計測器を現場職長が携帯し、測定値が厳重警戒値に達した場合は作業を休止し休憩
〇出勤時刻の前倒し(早出・早帰り)
〇新規雇用者等作業環境への順化ができていないものについては、作業時間や作業内容を配慮
A水分・塩分の摂取
自覚症状以上に脱水状態が進行していることもあるので、自覚症状の有無にかかわらず、作業前後の水分の摂取および作業中の定期的な接種を指導することが大切です。
具体事例:
〇作業前後および作業中に水分補給が行えるように、経口保水液を常備する。
〇対策キットの設置場所の明示
B通気性の良い服装など
建設現場では、安全衛生上から長袖の作業服やヘルメット、安全チョッキを着用するため通気性が劣る服装となってしまいます。
できるだけ熱を吸収しやすい服装は避け、透湿性および通気性の良い服装を着用することで、体から熱を逃がすことができ熱中症の予防になります。
具体事例:
〇遮光チョッキを着用する。
〇ヘルメット取付ソーラー充電式ファンとクーリングベルトを着用する。
〇速乾性および通気性の良い安全チョッキを着用する。
〇空調服を作業員に配布する。
@労働者の健康状態の確認
チェックシートを用いた労働者の健康状態の確認や、各自で健康状態を確認できるように工夫することで熱中症予防のための対策を行うことができます。
具体事例:
〇健康状態自己チェックシート(新規入場〜日々随時の体調管理)を記入する。
〇職長の聞き取りによる体調管理。
〇尿の色で脱水症状チェック(トイレに張り紙)
A作業中の巡視
定期的な水分および塩分の摂取に係る確認を行うことや、特に熱中症の発生の恐れのある気象条件時には、巡視を頻繁に行うことが重要です。
具体事例:
〇WBGT値のリアルタイム計測、携帯型WBGT値測定器により現場職長が測定値を常に確認できるようにする。
また、点在する作業現場への巡回車両に経口保水液や冷却用品を搭載する。
〇熱中症警告アラームおよびWBGT測定器の用意
〇朝礼時に熱中症対策グッズを確認
〇熱中症警戒アラームの携帯による注意喚起
〇経口保水液や冷却用品を搭載した冷房車両を巡回させ、作業員の健康状態を把握
〇作業責任者に熱中症計を携帯させ、作業員への注意喚起等を実施
安全協議会等では、下記の情報サイト等を活用して資料を提供して熱中症に関する理解促進と注意喚起を行っていますのでご活用してみてはいかがでしょうか。
【情報収集のための参考サイト】
■環境省熱中症予防サイト(パソコンサイト)
http://www.wbgt.env.go.jp/
・関連リンク一覧
http://www.wbgt.env.go.jp/links.php
・スマートフォンサイト:
http://www.wbgt.env.go.jp/sp/
・携帯サイト:
http://www.wbgt.env.go.jp/kt/
■厚生省ホームページ
・熱中症関連情報
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/index.html
作業現場での熱中症の予防に「暑さ指数(WBGT)」という言葉が出てきましたが、一体なんなのでしょうか?
・暑さ指数(WBGT)とは?
暑さ指数は熱中症の危険度を判断する数値で、人間の熱バランスに影響の大きい「気温」、「湿度」、「輻射熱(ふくしゃねつ)」の3つを取り入れた温度の指標です。
単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。
WBGTとはWet-Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)の略称で、名前のとおり黒い球が付いた測定装置で算出します。
・気温、湿度、輻射熱
暑さ指数(WBGT)は気温、湿度、輻射熱から算出するのですが、影響を与える割合については気温が1割、湿度が7割、輻射熱が2割としています。
※輻射熱…日射しを浴びたときに受ける熱や、地面、建物、人体などから出ている熱
※厳密には風(気流)などの影響も考慮します
湿度の割合が大きいのは、湿度が高い場所では汗が蒸発しにくくなり、体の熱をうまく外に逃がせなくなってしまい熱中症にかかる危険性が高まるためです。
・暑さ指数(WBGT)に応じた、日常生活や運動時の注意事項
暑さ指数(WBGT)は、さまざまな場面における行動指針として使われています。
たとえば、日本生気象学会では「日常生活に関する指針」の中で、日常生活における暑さ指数(WBGT)の指針を以下のとおりまとめています。
〇日常生活に関する指針
※参考:日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針Ver.3.1」
https://seikishou.jp/cms/wp-content/files/yobousisin210603/20210604-114336.pdfまた、日本体育協会がまとめた「熱中症予防のための運動指針」では、WBGTによる運動指針を以下の表のようにまとめています。
〇運動に関する指針
※参考:(公財)日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019)
https://www.japan-sports.or.jp/medicine/heatstroke/tabid523.html暑さ指数(WBGT)の単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、気温が28℃の状態と暑さ指数が28℃という状態では意味が異なるので注意が必要です。
※参考:環境省_暑さ指数(WBGT)について
https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php
環境省がまとめた暑さ指数(WBGT)と熱中症患者発生率の関係からも、暑さ指数(WBGT)が厳重警戒レベルとなる28℃を超えると熱中症事故が著しく増加しているとわかります。
暑さ指数(WBGT)は、簡単に自動で数値や危険度を表示してくれる『熱中症計』などもありますので使用してみてはいかがでしょうか。
黒球式熱中症指数計 熱中アラーム TT-562 TANITA
屋外・直射日光でも使用できるWBGT計で、熱中症の危険性をアラーム音と数値でお知らせします。
ヘルメット用ペンホルダー(別売り)を使用することでヘルメットに取り付けることもできます。
今まで感覚に頼っていた判断をアラーム音や数値でチェックすることができます。
日本気象協会が監修している携帯型熱中症計です。
5段階のLEDライトとブザー、WBGT表示で熱中症の危険性をわかりやすくお知らせします。
10分おきにセンサーが自動的に計測し、気温と湿度をより正確に計測するためにセンサー部分を内蔵せずに外に出しています。
スタンドカバー付きなので立てて置くこともできます。
上記でご紹介した携帯型熱中症計では作業に支障がでてしまう場合や、電源ボタンやスイッチ操作が手間に思われる方に使い切りタイプをご紹介します。
街建では猛暑対策の商品も取り扱っています。
上記の熱中症計以外にも様々な商品を取り扱っております。
熱中症は命にかかわる病気ですが、予防法を知っていれば防ぐことができます。
熱中症警戒アラートが出された場合には、できるだけ暑さを避け、水分・塩分の補給をしっかり行うなどの対策をしましょう。
気温だけでなく、その日の暑さ指数(WBGT)を気にすることでより熱中症にならないように行動できますね。
テレビでは猛暑日や真夏日などの気温が高い日を表す言葉が出てきますが、最高気温が35℃以上を猛暑日、30℃以上を真夏日と言うそうです。